採用については「試用期間」の解釈に感違いがある人は要注意。

「試用期間=簡単に辞めさせられる」は大間違いです。

また、人事異動についても、なんでも会社の好き勝手にできるわけではありません。

ただし、しっかり書いておけば、多くは「業務命令」として行うことができますので

きちんと確認しておきましょう。

休職は非常に特殊なルール。

ここを見れば、その会社の就業規則への関心度がわかってしまいます。

必ずポイントとなってくる規定ですので、侮らないように。

採用時の提出書類

試用期間

労働条件の明示

人事異動

休職

第4条(採用手続き)

会社は、就職希望者のうちから選考して、従業員を採用する。

第5条(採用時の提出書類)

  従業員に採用された者は、次の書類を採用日から2週間以内に提出しなければならない。

  履歴書

  住民票記載事項の証明書

  健康診断書

  前職者にあっては、年金手帳及び雇用保険被保険者証

  その他会社が指定するもの

  前項の提出書類の記載事項に変更が生じたときは、速やかに書面でこれを届け出なければならない。

チェックポイント

【「提出してもらうもの」と「提出締切日」がキモ!】

まずは、「提出してもらうもの」。

サンプル条文第5条1項⑤に

“その他会社が指定するもの”とありますので、

「その都度会社で設定できる=これで良さそう」

と感じるかもしれませんね。

でも・・・

“その都度指定”する方がよっぽど大変(面倒)じゃありませんか?

漏れがあったり似たようなもの提出させたりするのは、

お互いに「ムダ」を生じます。

あくまでも「その都度指定するもの=かなり特殊なケース」と考えて、

原則として必要な書類はしっかりと就業規則に書いておきましょう。

一度決めておけば、その都度考える必要がないわけですから、

会社の時間効率もアップしますよ! 

ここでのサンプル条文に記載がないものとしては、

「入社誓約書」、「身元保証書」、「情報保護に関する誓約書」

などは是非押さえておきたい事項です。 

続いて「提出締切日」。

サンプル条文では「採用日から2週間以内」となっています。

一見、問題はなさそうですよね。

しかし、

採用時提出書類はただ提出させて会社が保管すればいい

・・・というものではありません。

経歴詐称がないかどうかの確認をしたり、

身元保証人の確認をしたり、

入社後の手続きの準備をしたり

・・・そういうことをする為に必要となる書類ですよね。

これらを「採用日から2週間後」まで提出してもらわなくて大丈夫ですか?

このサンプル条文の文章自体に問題はありませんし、

「なんてことない」感じがするかもしれません。

しかし、

実際の業務の流れをイメージしてルールを決めておく

ことがとても大切なんです。

提出期限ギリギリ(採用2週間後)に必要書類を提出してもらった

→ 数日後、書類の内容を確認したら、問題が判明!

→ 業務スタートに影響!

→ 更に(すでに“採用”しているので)解雇問題に発展!

→ 「あ〜、もうこんなことやってる暇ないのに(怒)!」

・・・なんていう展開になったら最悪です。

この書類をどうして提出してもらうのか、

というところからもう一度確認してみてください。

どんな遅くても、採用前には確認しておきたいですよね!

これも会社の時間効率Upに大きく差が出てくる条文です。

第6条(試用期間)

  新たに採用した者については、採用の日から○ヶ月間を試用期間とする。ただし、会社が適当と認めるときは、この期間を短縮し、又は設けないことがある。

  試用期間中に従業員として不適格と認められた者は、解雇することがある。

  試用期間は、勤続年数に通算する。

チェックポイント

【試用期間中なら辞めさせられるの?

「試用期間=会社の裁量で辞めさせることが可能な期間」

・・・これは大きな勘違いです。

試用期間として会社が辞めさせることができる(解雇予告手続きが必要ない)のは

「試用期間(入社日から)14日目まで」です。

それ以降はたとえ会社の定めた「試用期間中」であっても、

辞めさせるためには解雇の手続きが必要となります。 

「じゃあ、試用期間なんて決めても意味がない!?」

・・・かというと、 そんなことはありません。

会社も採用時だけでその人(採用希望者)の全てを見極めることはなかなかできません。

一定の期間について、その従業員の能力など適格性をチェックして、

“やっぱりウチの会社には合わないな(不適格)”

という場合には本採用しないことができるとされています。

(これを留保解約権といったりします) 

では、この

“試用期間中の解雇(本採用拒否)”

認められるのはどんなときなのか

裁判で争ったケースではその条件として、

合理的な理由があって、社会通念上相当であること

と示されたこと(判例)があり、これがモノサシになっています。

・・・合理的?社会通念上??

はい、文章として見るととても「曖昧」なんです。

だから、

少なくとも「合理的理由」として

“根拠となる基準”を準備しておかなくてはいけないんです。

つまり、

「ウチの会社専用!試用期間における判断の基準と対応」ルール。

ウチの会社専用!会社のルール=就業規則、でしたよね。

だから就業規則の中にそのルールを記載しておくわけです。

就業規則に書いてあるからといって、

何でもかんでも試用期間で辞めさせられるわけではありませんよ。

そこは誤解なきように。

しかし、書いていないと本採用を拒否することができません 

このポイントは解雇の部分と合わせて確認するとわかりやすいかもしれません。

なお、試用期間の長さについて、法律における上限はありませんが、

長くても1年以内を目安に、会社の実情にあわせて設定しましょう。

「1ヶ月」〜「3ヶ月」としている会社が多いです。

また、サンプル条文では試用期間の「短縮」については触れていますが、

試用期間の「延長」に関しても追加しておきたいですね。

第7条(労働条件の明示)

会社は、従業員の採用に際しては、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日その他の労働条件を明らかにするための書面の交付及びこの規則を周知して労働条件を明示するものとする。

チェックポイント

【労働条件の明示ってどういうこと?】

労働条件の示し方については

「契約なんだからそりゃはっきりしなきゃいけないよね」

という意味もありますが、

特に法律でそのルールが決められています。

労働基準法第15条(労働条件の明示)

①使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

②前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

③前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

この労働条件の明示、口頭でも構わないのですが、

ここで登場した「厚生労働省令で定める事項」(下記事項)については

採用にあたり、必ず書面交付による明示が求められます。

これらは「絶対的明示事項」などと呼ばれています。

①労働契約の期間に関する事項

②就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

③始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

④賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金、賞与を除く。以下同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項

⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

「口約束でも契約は成立するはず!」と思った方、正解です。

雇用契約書がなくても、“契約自体”は成立します。

しかし、“これら事項を「口頭で伝えた」だけでは

(契約自体は成立しても)労働基準法15条違反になる

ということは必ず押さえておきましょう。

また、絶対的明示事項“以外”の事項についても、

後で「言った、言わない」の論議になることを避けるために、

書面での明示・確認を行いましょう。

労働契約法(4条2項)で

労働契約の内容について、できるかぎり書面により確認するもの

と定められています。

第8条(人事異動)

  会社は、業務上必要がある場合は、従業員の就業する場所又は従事する業務の変更を命ずることがある。

  会社は、業務上必要がある場合は、従業員を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。

チェックポイント

【権利の濫用には要注意!】

配置転換(同じ会社内で働く場所や担当業務がかわること)や

出向(他の企業内において働く形態)については、

「そういう業務命令があるんだ」ということを

きちんと就業規則で決めて(記載して)いなくてはいけません。

通常の会社では当然のようにこのような「人事異動」が行われていますが、

実は、就業規則のこの条文を根拠に成り立っているんですね。

なお、実際にはここでとりあげたサンプル条文ではちょっと役不足です。

下記の3点にも注意しておきましょう。

【①業務命令なので遵守が原則。でも… 】

ここでの人事異動は「業務命令」であり、

従業員は「行きたくない」とか「やりたくない」という理由でこれを受け入れない、

という選択肢を基本的には持っていません。

ですから、「転籍」の場合(③参照)を除いて、

それらを拒むことができないことを就業規則に明記しておきましょう。

ただし、「じゃあ会社は何でもかんでも一方的に人事異動を出せるのか?」

というと、そんなことはありません。

やはり、

「業務に関係のない異動」

「会社側に不当な動機・目的がある異動」

「特殊な事情を抱えている場合の転勤(例:従業員本人が育児・介護・看護しなくてならない家族がいる場合等)」

などについては、会社側に配置命令の権利は認められません。

【②意外と盲点?「引き継ぎ」について 】

人事異動があった場合、意外におざなりにされるのが「引き継ぎ業務」です。

自分の意に反した人事異動が出て、投げやりになり、

引き継ぎをきちんと行わない(せめてもの反抗なのかもしれませんが…)、

昇進異動が決まって舞い上がって今の業務の引き継ぎなんて手につかない、

・・・ということも実際にはあります。

しかし、引き継ぎまで含めて「業務」です

他のメンバーやお客様にも迷惑がかかります。

就業規則の中に、きちんと引き継ぎを行うことも併せて記載しておきましょう。

【③「在籍出向」と「移籍出向」は別の物。】

出向は、更に二つの種類に分けることができます。

在籍出向と移籍出向です。

在籍出向はサンプルでもでてきた形態、

現在の企業に籍を残したまま別の企業で働くタイプの出向です。

一般的に「出向」という場合、こちらを指します。

これに対して、移籍出向は「転籍」とも言われるように、

現在の会社との労働契約関係が終了し、

別の会社で新たに労働契約を結ぶこと(籍が変わること)をいいます。

転籍の場合、就業規則に定めがあっても、

必ず個別に「本人の同意」を得なくてはなりません。 

「出向」の規定とは別に「転籍」の規定も整備しておくことで、

従業員にもその違いを周知しておきましょう。

第9条(休  職)

  従業員が、次の場合に該当するときは、所定の期間休職とする。

①私傷病による欠勤が○ヶ月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないと認められたとき・・・○年以内

②前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認めらたとき・・・必要な期間

  休職期間中に休職事由が消滅したときは、もとの職務に復帰させる。

ただし、もとの職務に復帰させることが困難であるか、又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

  第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治ゆせず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

チェックポイント

【休職制度の特徴を押さえるべし!】

休職制度とは、従業員が私的な傷病や事故等により職務を遂行できない

(または就労させるのが適切ではない)場合に、

すぐに退職や解雇とせずにその身分を一定期間存続させつつ、

その回復(復帰)を待ってあげる、という制度です。

休職制度には大きな特徴が2つあります。

休職制度は法律で定め(義務付け)されたものではない

休職事由(どんな時に休職とするか)、休職期間などは会社で任意に決められる。

多くの会社で取り入れられているため、誤解されていることがありますが、

休職の定めは法律上の義務ではありません

つまり「ウチの会社は休職制度を設けない」とすることもできるんです。

そして、法律に定めがないからこそ、

就業規則で定められている内容が「根拠」として重要な意味をもつことになります。

では、置かなくてもよい制度なのに、なぜ多くの会社が休職制度を設けているのでしょうか?

一つの大きな理由は会社の福利厚生、従業員へのフォローです。

そして、もう一つポイントがあるのですが、

これは退職事項と大きく関わってくる点があるので、そこで説明したいと思います。

「休職制度」においては、重点的に確認すべき項目が4つあります。

①休職事由 ②休職期間 ③期間の通算 ④復職

【①休職事由】

※前提として、休職の対象となる従業員群を明確にしておきましょう。

(休職制度については、正社員のみを対象としている会社が多いですね。)

この「どんな時に休職になるか」の定義はとても重要です。

ここが明確になっていないと、ズルズルと“ただの長期欠勤”に突入してしまうことがあります。

前述のように、休職は法律で決められたものではないわけですから、

「会社が」そのスタートを決めなければ(命じなければ)なりません。

決して“なんとなく”あるいは“自動的に”スタートするようなものではありません!

「どんな時」に「いつから」休職を命じるのか、明確に決めておきましょう

また、最近急増している「うつ」等の精神疾患もこの規定と大きく関連しています。

うつのような精神疾患の場合、必ずしも連続的な欠勤ばかりとは限りません。

断続的な欠勤や不就労(遅刻や早退など)にも対応できる規定にしておきましょう。

【②休職期間】

「休職期間」についての押さえどころはその「長さ」と従業員の「勤続期間」です。

大企業の場合は多少違うかもしれませんが、

中小企業の場合、いくら従業員が病気で入院したとはいえ、

1年も2年も「その人不在」を現実的に残っているメンバーでカバーできるでしょうか?

入院している人が戻ってくることが前提ならば、

その穴を埋めるために新たに人を雇うことも難しく、

その期間は他のメンバーにそっくりそのまま負担がかかることになってしまいます。

仮にその間に今度は他のメンバーが倒れて…などという連鎖が起こったら最悪です。

あなたの会社の実態に即した「長さ」を設定しておかないと大変です。

例をあげますが、

Aさん:入社1ヶ月

Bさん:入社3年

Cさん:入社10年

・・・この3人に同じ期間の休職期間を設定するのは少し違和感がありませんか?

休職期間は勤続期間によってその長さを変えることも可能です。

労に報いる(福利厚生)という意味でもその方が“現場の従業員も納得”ですよね。

それから、休職期間について

サンプル規定の様な「○年以内」という“ざっくり”した期間設定方法は避けましょう

一見使い勝手がよく便利そうに見えますが、

その都度、期間の判断を必要とすることになります。

その都度決めることというのは、「状況判断」なので、

どうしても基準が曖昧(感覚的)になってしまいます。 

その曖昧さ故に、

「今回のケースにおいてこの休職期間は短かすぎるのではないか」

等の理由で従業員とのトラブルになってしまうことがあります。

そもそも、いきなりそういう状況(休職)になった会社(あなた)が

冷静に休職期間を決めるなんて、そうそう簡単にできる事ではありません。

あなたは「適切な期間」なんて、いきなり決められますか?

「その期間の根拠はなんですか?」と詰め寄られた時に、客観的な説明できますか?

・・・はい、絶対に修正しておきましょう。

【③期間の通算】

休職した従業員が一度復帰しても、しばらくしてまた休み始めてしまうことがあります。

また、まったく同じ病気(または原因)ではないにしても、

類似の病気(または原因)で同様に休んでしまうこともあります。

やはり、精神疾患(うつ病)などのケースに多いようです。

こういう時、これらの期間も「通算」して休職期間とすることを決めておきましょう。

そうしておかないと、

1ヶ月休職→復帰(休職期間ゼロリセット)→再発、1ヶ月休職→復帰(ゼロリセット)・・・

という流れが延々と続くことになってしまいます!

【④復職】

回復したら職場復帰するわけなのですが、

じゃあ、この「回復」という判断は誰がするんでしょうか?

「掛かり付けのお医者さん」と思ったあなた、

就業規則の作成に主眼を置いた場合、その答えは少し違います。

正解は「会社」です。

休職開始を決めるのは法律ではなく会社でしたよね。

そして、これは労働を免除するという福利厚生であるとともに、「業務命令」でもあるわけです。

ですから、この業務命令の終了(復職)の判断も

当然「会社」が行うものとしておかなくてはなりません

なお、休職制度全般を通して「医師の診断書」を求める規定を入れる場合、

その診断書費用は誰が負担するのかも併せて記載しておくとGOODです。

負担者は会社でも本人でも、どちらでも構いません。

法律でのルールはありませんからね。

ただ、結構費用がかかりますので、事前にきちんと決めておきましょう。

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神奈川県座間市の社会保険労務士、岡本豪です。前職は「スーパーの魚屋」!
約10年の間、日々お客様と向き合う接客の現場や部門マネージャーを経験。
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