安全衛生・災害補償・教育訓練の項目は、

就業規則の後ろの方にひっそり(?)規定されています。

そのためか、ここは

ほとんど見ないでサンプルのまま・・・

ということが起こりやすい。

しかし、これらの規定はいずれも

「お金の支出」についてトラブルになりやすいところでもあります。

「知らなかった」では済まない、大きな支出が発生することもあるので、

要チェックです。

安全衛生(衛生推進者)

健康診断

就業禁止等

災害補償

教育訓練

第46条 (遵守義務)
1  会社は、従業員の安全衛生の確保及び改善を図り、快適な職場の形成のため必要な措置を講ずる。
2  従業員は、安全衛生に関する法令及び会社の指示を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めるとともに、特に安全、防災に関し、次の事項を守らなければならない。
 ①  自衛消防隊を会社が組織する場合は、必ず加入すること
 ②  消火栓、消化器等の機器並びに資材の設置場所及びその取扱方法を熟知しておくこと
 ③  ガス、電気、危険物、有害物質等の取扱いは、所定の方法に従い特に慎重に行うこと。
 ④  通路、階段、非常口及び消火設備のある場所に物品等を置かないこと
 ⑤  前各号のほか、安全、防災に関する管理者の指示に従うこと

第47条 (非常災害等の措置)
1  従業員は、災害その他非常災害の発生する危険を予知し、又は異常を発見したときは、直ちに所属長に通報し、臨機の措置をとらなければならない。
2  従業員は、火災その他非常災害が発生した場合は、互いに協力してその被害を最小限にとどめるよう努力し、顧客等の避難誘導等適切な措置を講じなければならない。

第48条 (衛生に関する心得)
従業員は、健康の保持向上に努め、衛生管理者その他の関係者の指示に従い、会社の行う健康に関する施策の推進に協力し、かつ指示を励行しなければならない。

チェックポイント

【職場の安全衛生の確保】

労働災害を防止するために、職場において安全衛生を確保することはとても重要。

まずは社員に

「守ってもらうこと(遵守事項)」

「いざというときにやってもらうこと (非常災害等の措置)」

を記載しておきましょう。

当たり前の内容であっても、「確認」しておくことがポイントです。

【「衛生管理者」ってなに?】

職場の安全衛生については、

各従業員がそれぞれ意識して取り組むことも大切ですが、

職場(会社)としての「管理体制」を整えておくことも求められます。

そこで、「労働安全衛生法」という法律の中で、

一定以上の人数・業種の職場については

安全衛生の管理をする者を選任することが義務づけられています。

サンプル条文(衛生に関する心得)内の

衛生管理者」というのは

労働者の健康衛生を管理する資格者で、

業種を問わず「常時50人以上」の従業員を抱える職場では

必ず選任しなくてはなりません。

衛生管理者になるためには、

「都道府県労働局長の免許」や「医師」などの資格が必要なので、

なりたい!といって誰もがなれるわけではありません。

なお、選任したら、労働基準監督署への届出(報告書の提出)が必要です。

 ※参考:神奈川県労働局労働衛生課「衛生管理者とは」

 神奈川労働局HP

 http://www.kana-rou.go.jp/users/kijyun/eskanrisha.htm

【「衛生推進者」の選任漏れにはご用心!】

従業員が10人以上50人未満の職場の場合、

衛生管理者を置く必要はありませんが、

「衛生推進者」を選任する必要があります。

(名称が似ていますが別の資格者です)

衛生管理者と同じく、全ての業種が対象です。

(建設業や製造業などの業種については「安全衛生推進者」を選任することになります。)

「衛生推進者」は衛生管理者のような資格(医師等)をもっていなかったり、

これまで安全衛生の教育・実務経験がなくても、

厚生労働省指定の「講習」を修了すればなることができます。

衛生推進者を選任したら、

職場の見やすいところに掲示するなど、従業員への周知もしておきましょう!

原則、10人以上になったら14日以内に選が必要です。

(労働基準監督署に届け出る必要はありません)

 ※参考:神奈川県労働局労働衛生課「安全衛生推進者・衛生推進者について」

 神奈川労働局HP

 http://www.kana-rou.go.jp/users/kijyun/aneisuis.htm

第49条(健康診断)
1  従業員に対しては、採用の際及び毎年1回(深夜業その他特定有害業務に従事する者は6か月ごとに1回)、定期に健康診断を行う。
2  前項の健康診断の結果必要と認めるときは、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。

チェックポイント

【健康診断は「受けさせる」のも義務、「受ける」のも義務!】

毎年行われる「健康診断」。

従業員の健康管理が最大の目的なのは言うまでもありません。

しかし、そのための「任意」の検査ではありません。

会社が従業員に健康診断を「受診させる」のは法律で定められた義務です。

(労働安全衛生法第66条1項)

そして、もうひとつ、従業員の側にも「受診する義務」が存在します。

(労働安全衛生法第66条5項)

義務は両方に課されています。

しかし、それを怠った時、「会社の方にだけ罰則があります」。

ここは重要なポイントです。

会社として、健康診断の仕組みを整備しておく必要があるわけです。

【健康診断の対象者】

一般的な健康診断として押さえておきたいのは次の3つです。

①雇入れ時健康診断(雇い入れの際)

②定期健康診断(定期に:1年以内ごとに1回)

③特定業務従事者(配置換えの際・定期に:6ヶ月以内ごとに1回)

①と②の対象者は「常時使用する労働者」です。

この「常時使用する労働者」の範囲がポイント。

パートタイム従業員も対象になる点は要注意です。

 ・期間の定めのない労働契約をしている者(正社員)

 ・1年以上使用されることが予定されている者

 ・パートタイム従業員で、1週間の所定労働時間が
  同種業務に従事する正社員の「4分の3以上」

③については深夜業・坑内労働等一定の有害業務に常時従事する者が対象です。

【健康診断を受診することを業務命令とする】

さきほどもふれましたが、

①従業員(受診対象者)には健康診断を受診させなくてはいけない

②従業員の側にも受診義務はあるが、会社と違って罰則はない

となれば、会社のルール、業務命令として健康診断は受診させなくてはいけません。

会社の方が「受けさせない」という場合はいうまでもありませんが、

怖いのはむしろ従業員の側が「受けたくない」という態度をとった場合です。

就業規則等で

健康診断は、特別な理由がない限り、必ず受診するものとする」(業務命令)

としておくことで、

労働者の「受診拒否」についても明確に「ルール違反」とすることができます。

(注意しても聞かない場合、懲戒の対象とすることも可能になってきますね)

従わない場合には懲戒の対象とする、ということまで定めておくと万全。 

また、最近では

“自分のかかりつけの医院で健康診断を受診したが、

その結果を「個人情報だから」などの理由で提出しない”

・・・というトラブルも起こっています。

「個人情報」などといわれると面食らってしまいそうですが、

会社は受診させるだけでなく、その結果を「保存」しておく義務もあります

確かに個人の情報でありますが、会社は労働安全衛生法のルールの元、

この健康診断結果の管理をすることを認められているのです。

ですから、このような“提出拒否”をされた場合には

法律でこのようなルールがあることを従業員に説明し、

 ①原則としては会社が行う健康診断を受診

 ②特別な理由による個別受診の場合には、その診断結果を必ず提出

として、確実に診断結果を回収・保管しておきましょう。

第50条 (安全衛生教育) 
従業員に対し、雇入れの際及び配置換え等により作業内容を変更した際に、その従事する業務に必要な安全衛生教育を行う。

第51条 (就業禁止等)
1  他人に伝染するおそれのある疾病にかかっている者、又は疾病のため他人に害を及ぼすおそれのある者、その他医師が就業不適当と認めた者は、就業させない。
2  従業員は、同居の家族又は同居人が他人に伝染するおそれのある疾病にかかり、又はその疑いのある場合には、直ちに所属長に届け出て、必要な指示を受けなければならない。

チェックポイント

【就業「禁止」であることをはっきりさせておく!】

就業禁止は一定の疾病(病気)などになった従業員を休ませるというルールです。

これは風邪などを理由に従業員が休むことを認めるルールではなく、

伝染病などの場合には職場への出社を「禁止」するというルールです。

【就業禁止の時の賃金は?】

インフルエンザなどがこれに該当するでしょう。

インフルエンザであることがわかったら、

その従業員(又は家族)は職場に行くことはできません。

感染を防ぐために病院(医師)からそのような指示を受けますね。

これは会社の都合によるものではありませんので、

会社都合による「休業手当」を支給する必要はありません。

無給でもかまわないんですね。

サンプル条文にはありませんが、

「無給である」ことまで定めておけば万全です。

(実際には有休や傷病手当金による対応が考えられます。)

なお、病院(医師)にはインフルエンザの診断をされていないのに、

会社側が「大事をとって(予防的に)」休ませた場合には、

その判断を“会社”がおこなっていることになるので、

休業手当を支給する必要が出てきます。注意しましょう。

【まずは報告をしてもらう!】

会社には従業員の健康管理を行う義務がありますので、

感染を拡大させないようにしなくてはなりません。

このような病気(伝染病など)については、

とにかく早くその状況を報告してもらうこと

素早く報告を受けることでその後の対応も早くなります。

人の命にかかわることもある事項です。

就業規則にそのルールを定めるだけでなく、

その内容を従業員にしっかり理解してもらうことが大切です。

第52条(災害補償)
従業員が業務上の事由又は通勤により負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合は、労働基準法及び労働者災害補償保険法に定めるところにより災害補償を行う。

チェックポイント

【災害補償ってなに?】

災害補償とは、労働者が業務上で災害を被った場合、

会社がその補償を行うものです。

労働基準法にその定めがあるので、必ず行わなくてはなりません。

・療養補償

・休業補償

・傷害補償

・遺族補償

・葬祭料

・打切補償

これらの補償義務をカバーするために、

労災(労働者災害補償保険法)があるんですね。

【労災が給付された場合について】

災害補償のカバーをするのが労災なので、

労災が支給されたのであれば災害補償を別途行う必要はありません。

ただし、それが従業員にしっかり伝わっていないと、

従業員は「会社からの災害補償と労災は別物」と

勘違いしてしまうケースが考えられます。

「労災の給付が行われた場合には、

その給付が行われた限度において災害補償をおこなったものとする」

ということを明記しておきましょう。

【通勤労災には注意】

サンプルの条文にも何気なく入っている「通勤」という言葉には要注意。

法律の災害補償義務があるのはあくまでも「業務上」の事故であり、

いわゆる「通勤時」の事故(通勤労災)は対象になっていません。

通勤労災が認められるためには

一定の条件をクリアしていることが条件になっています。

従業員が「通勤中のケガです」と言っても、

労災が支給されないことがあるわけです。

ですから、サンプル条文のような記載だと

「通勤途中にケガしたら、労災、または会社から災害補償が受けられる」

という解釈もできてしまうんです!

「通勤労災が認められれば労災が支給される」ということは

国で定められたルール。

就業規則に記載する必要はありませんので、

安易に「通勤」というキーワードを入れないように注意しましょう。

【労災上乗せ補償とは】

業務上の事故について、労災がカバーしてくれるとはいっても、

そのカバーしてくれる範囲は無制限ではありません。

特に大きな障害や死亡事故になってしまった場合には、

その損害額は大きくなります。

会社に責任(故意や過失)がある場合、

「損害賠償」の請求を受けることがあからです。

このリスクの予防として民間保険に加入するのが

「労災上乗せ補償」です。

労災上乗せ補償は法定の給付でありませんから、

自社で導入している場合にはしっかり就業規則に記載しておく事項です。

ここでの注意点は次の3点です。

①労災上乗せ補償は、慰謝料などに充当するものであるので、

この補償を受けるにあたって、会社に対する全ての損害賠償権を放棄するものであること

 (精神的苦痛については別だ、等の主張をさせない)

②会社に対して全ての損害賠償権を放棄する旨の書面提出を義務とすること

 (あとで言った言わないのトラブルを回避)

支給対象者を明確にしておくこと

 (例:民法上の相続人)

第53条(教育訓練)
1  会社は、従業員に対し、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、必要な教育訓練を行う。
2  従業員は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り指示された教育訓練を受けなければならない。

チェックポイント

【研修費用を退職時に回収できる?】

会社によって、従業員に研修費用を出しているケースがあると思います。

会社としては「この会社でがんばってくれること」を前提に

費用を出しているはず。

しかし、研修をいくつか受けた後に、あっさりと

「辞めます」と言われたら・・・

ちょっと待てよ!と思いますよね。

研修費用を従業員から回収することは可能なのでしょうか?

一定期間就業することを条件に採用・研修を行うことはできるのでしょうか?

【労働基準法第16条に注意】

会社は、労働者が退職する場合などに、

一定額の違約金を定めたり、損害賠償の請求を予定することによって、

退職の自由を制限することはできません

(労働基準法第16条)

さきほどの「一定期間就業を条件に・・・」は

これにひっかかる可能性をもっています。

「退職に際して、研修費用4万円を遡って会社に支払う」

という契約は退職の自由を奪うので

労働基準法第16条違反である、とした判例があります。

【ポイントは「強制」か「任意」か】

会社は、従業員が業務を行うために

必要な教育を行わなくてはなりません。

ですから、「必要な教育=強制」

ということになります。

会社が強制(義務化)している教育については、

費用も会社が負担しなくてはなりません。

会社が受講を義務づけている教育・研修の費用を

従業員に費用負担させる(支払わせる)ことはできません。

就業規則で「必ず受けなくてはならない」とされている教育訓練は

まさにこれですね。

一方、

従業員のスキルアップ(資格取得など)を目的とする

「任意の」研修費用については、

必ずしも会社に費用負担の義務はありません。

このような場合は悩みどころですね。

スキルアップは会社のプラスになりますから、推奨したいし補助したい。

でも、受講後すぐに辞められたら、会社が損してしまう。

【「立て替え払い」という取り扱いも検討を】

任意の研修費用の場合、

「立て替え払い」という方法を検討してみるのも一案です。

あくまでも、会社は従業員本人の意思に対して費用を「立て替える」。

ですから、基本は「返してもらう」。

ただし、一定期間就業(在籍)した場合には、この返還義務を「免除する」。

このような取り扱いを行う場合は次の点を注意しておきましょう。

事前にこの仕組みについて就業規則の定めや従業員への説明をしておくこと

任意の教育・研修が対象であること

③労働契約を拘束しないものであること

④研修費用の実費の範囲内であること

あとで「言った言わない」のトラブルを回避するには

立て替え払いに関して書面で確認すること(消費貸借契約書など)

もポイントですね。

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神奈川県座間市の社会保険労務士、岡本豪です。前職は「スーパーの魚屋」!
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